応神天皇と渡来の文化

第 9 章

応神天皇と渡来の文化おうじんてんのう

海を越えて、文字と技術がこの国へ流れ込む。

◀ 人代編 中巻 へもどる
この物語は、原文を読みやすく現代語にしたかなり“はしょった”要約・脚色版です。細部や表現は正確な原文・訳注書と異なる場合があります。

第十五代・応神天皇オウジンテンノウの御代は、海の向こうとの交流が一気に活発になった時代として描かれます。

百済の国から和邇吉師ワニキシ(王仁)が遣わされ、『論語』十巻と『千字文』一巻を携えて渡ってきました。これが日本に漢字と儒教の学問が伝わった始まりとされ、以後の文化の土台となっていきます。

書物を携えた渡来人
書物を携えた渡来人

学問だけではありません。機織りの技術者、鍛冶の工人、酒造りの職人たちも次々と渡来しました。なかでも酒造りを伝えた須須許理ススコリが醸した酒を飲んだ天皇は、たいそう上機嫌になって歌を詠み、道端の大きな石を杖で打つと、石が逃げ出したという愉快な逸話も残されています。

酒に酔う天皇
酒に酔う天皇

一方で、皇位継承をめぐる物語も語られます。天皇は末子の宇遅能和紀郎子(ウヂノワキイラツコ)を後継に望みましたが、天皇の死後、兄の大山守命(オオヤマモリノミコト)が皇位を奪おうと兵を挙げます。もう一人の兄・大雀命(オオサザキノミコト)と協力してこれを退けた郎子は、しかし兄に位を譲ろうとして譲り合いを続け、ついに自ら命を絶ったと伝えられます。

譲り合う兄弟
譲り合う兄弟

こうして即位したのが大雀命、すなわち次章の仁徳天皇です。応神天皇は後世、武運を司る八幡神ハチマンシンと同一視され、全国四万社ともいわれる八幡宮に祀られていきました。神話の時代から、大陸と交わる現実の歴史へ。中巻はここで幕を閉じます。

登場する人物・神々

応神天皇
オウジンテンノウ
第十五代天皇。渡来文化を受け入れ、のちに八幡神として広く祀られます。
和邇吉師
ワニキシ
百済から論語と千字文をもたらした学者。漢字文化伝来の象徴です。
須須許理
ススコリ
酒造りの技術を伝えた渡来人。天皇を上機嫌にさせた酒を醸しました。
宇遅能和紀郎子
ウヂノワキイラツコ
応神天皇が後継に望んだ皇子。兄と位を譲り合い、自ら命を絶ちました。

豆知識・この物語の背景

八幡さまと武士
八幡神は源氏の氏神とされ、鎌倉の鶴岡八幡宮をはじめ武士の信仰を集めました。全国に最も多く分布する神社のひとつです。
譲り合いの物語
皇位を押し付け合うという珍しい展開は、儒教的な「謙譲の美徳」を語る話として、後世に記されたとする見方もあります。
この章をシェア✕LINEFacebook