初代・神武天皇が亡くなると、その後継をめぐって異母兄弟の間に争いが起こりました。皇子の一人が兄たちを討ち、第二代・綏靖天皇として即位します。ここから八代にわたる、静かな時代が始まります。
綏靖、安寧、懿徳、孝昭、孝安、孝霊、孝元、開化。この八人の天皇について、古事記が記すのはごくわずかです。どこに宮を営んだか、后は誰で、どのような御子が生まれたか、そして御陵はどこにあるか。淡々とした系譜の記録が続くばかりで、物語らしい逸話はほとんど登場しません。

後世の研究者はこの八代を「欠史八代」と呼びました。伝えるべき物語が失われたのか、それとも記す必要がないと判断されたのか。あるいは、王統の連続性を示すために後から補われた世代なのか。実在性をめぐる議論は今も続いています。

ただし、この八代がまったく無意味というわけではありません。孝霊天皇の御子には、のちに崇神天皇の御代で四道将軍として活躍する人物や、桃太郎伝説のモデルともいわれる吉備津彦命(キビツヒコノミコト)が名を連ねています。血脈は静かに枝を広げ、次の時代の登場人物たちを準備していたのです。

華やかな挿話のない八代。それでも、この静かな時間を経てこそ、物語は次の大きな転換点である崇神天皇の御代へと進んでいきます。