八岐大蛇

第 九 章

八岐大蛇やまたのおろち

追放の英雄が、八つ頭の大蛇を智略で討つ。

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この物語は、原文を読みやすく現代語にしたかなり“はしょった”要約・脚色版です。細部や表現は正確な原文・訳注書と異なる場合があります。

高天原を追放された須佐之男(スサノオ)は、出雲国の肥河(ひのかわ)の上流へと降り立ちました。すると川上から一本の箸が流れてきます。「上流に人がいる」と川をさかのぼると、老夫婦が美しい娘をはさんで泣いていました。

わけを聞けば、この地には八つの頭と八つの尾を持つ怪物・八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が毎年やって来て、娘を一人ずつ呑んでいくのだといいます。老夫婦にはもともと八人の娘がいましたが、今や残るは末娘の櫛名田比売(クシナダヒメ)ただ一人。今年こそ、その番なのでした。

泣く老夫婦と櫛名田比売
泣く老夫婦と櫛名田比売

須佐之男は「その娘を私にくれるなら退治しよう」と申し出ます。そして一計を案じました。何度も繰り返し醸した強い酒「八塩折(やしおおり)の酒」を用意させ、八つの門を作って門ごとに酒の桶を置く。姫は櫛の姿に変えて自分の髪に挿し、じっと待ち構えます。

八塩折の酒の罠
八塩折の酒の罠

やがて現れた大蛇は、八つの頭をそれぞれの桶に突っ込み、酒を飲み干して、酔いつぶれて眠ってしまいました。その隙に須佐之男は十拳剣を抜き、頭を、胴を、尾を、ずたずたに斬り伏せます。ところが尾の一本を斬ったとき、剣の刃が欠けました。裂いてみると、中から見事な太刀が現れます。これこそ、のちに三種の神器のひとつとなる草那芸之大刀(クサナギノタチ)。須佐之男はこれを姉・天照に献上し、櫛名田比売と結ばれて、出雲の地に宮を建てて暮らしました。

尾から現れる草薙剣
尾から現れる草薙剣

宮を建てるとき、須佐之男の胸には、みずみずしい喜びがあふれていました。立ちのぼる雲を見て詠んだ歌は、幾重にも垣をめぐらせて愛する妻を守ろうという、まっすぐな想いに満ちています。かつて高天原で暴れた荒ぶる神は、いつしか、人を救い、家庭を築く神へと変わっていました。そしてこの二柱の血筋から、やがて出雲の国づくりを担う偉大な神が現れることになるのです。

登場する神々

須佐之男命
スサノオノミコト
智略で大蛇を退治した英雄神。乱暴者から一転、人々を救う存在となります。
櫛名田比売
クシナダヒメ
大蛇の生贄になるところを救われた姫。須佐之男の妻となります。稲田を守る神ともされます。
八岐大蛇
ヤマタノオロチ
八つの頭と尾を持つ巨大な怪物。氾濫する川の化身とも解釈されます。

豆知識・この神話の背景

草薙剣は熱田神宮へ
大蛇の尾から出た草薙剣は三種の神器のひとつ。のちにヤマトタケルの物語を経て、現在は名古屋の熱田神宮に祀られているとされます。
“八雲立つ”和歌のはじまり
須佐之男が宮を建てて詠んだ「八雲立つ 出雲八重垣…」は、日本最古の和歌とされ、和歌の起源として知られています。
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