誓約

第 七 章

誓約うけい

姉と弟の“生みくらべ”から、皇室の祖神が生まれる。

◀ 神代 目次へもどる
この物語は、原文を読みやすく現代語にしたかなり“はしょった”要約・脚色版です。細部や表現は正確な原文・訳注書と異なる場合があります。

海原を治めるよう命じられた建速須佐之男命(スサノオ)でしたが、彼は仕事をせず、亡き母のいる根の国を慕ってただ泣きわめくばかり。あまりの荒れように、父・伊邪那岐はついに彼を追放してしまいます。須佐之男は、去る前にひと目、姉に別れを告げようと、天上界・高天原へと昇っていきました。

ところが、弟が昇ってくると山や川が鳴りどよめきます。天照大御神(アマテラスオオミカミ)は「弟は私の国を奪いに来たのでは」と警戒し、髪を結い直して武具を身にまとい、弓を手に、弟を迎え撃つ構えを取りました。須佐之男は驚いて言います。「邪心などありません。潔白を証明するため、誓約(ウケイ)をしましょう」。

武装して弟を迎える天照
武装して弟を迎える天照

誓約とは、あらかじめ結果の意味を決めておいて、神意を占う神聖な行いです。天照が弟の剣を受け取って噛み砕き、霧のように吹き出すと、三柱の女神、宗像三女神(ムナカタサンジョシン)が生まれました。続いて須佐之男が姉の勾玉を噛んで吹き出すと、五柱の男神が生まれます。

誓約、生みくらべ
誓約、生みくらべ

その五柱の、いちばん最初に生まれたのが正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(アメノオシホミミ)でした。この神こそ、のちに地上へ降る天孫・邇邇芸命(ニニギ)の父であり、天皇家の血脈へとつながっていく始祖の神です。自らの持ち物から清らかな神が生まれたことで、須佐之男は「これで潔白が証された」と勝ち誇りました。けれど、その勝利の高ぶりが、次なる騒動の火種となっていくのです。

皇祖神の誕生
皇祖神の誕生

本来、身の潔白を示すはずだった誓約。その勝負に勝ったと思い込んだ須佐之男は、天にも昇る心地で勝ち名乗りを上げます。しかし「勝った」という高ぶりは、やがて手のつけられない乱暴へと姿を変えていきました。姉・天照の深い悲しみと、世界を包む闇。名高い「天の岩戸」の物語は、この勝利の余韻から幕を開けるのです。

登場する神々

天照大御神
アマテラスオオミカミ
武装して弟を迎えた太陽神。誓約で弟の剣から三女神を生み出します。
須佐之男命
スサノオノミコト
潔白を示すため誓約を提案。勝ち誇るあまり、次章で乱暴を働くことになります。
天忍穂耳命
アメノオシホミミノミコト
誓約で最初に生まれた男神。天孫ニニギの父であり、皇室の祖神とされる重要な神です。

豆知識・この神話の背景

宗像三女神と“神の島”沖ノ島
誓約で生まれた三女神は、福岡県の宗像大社に祀られ、航海の守り神とされます。沖津宮のある沖ノ島は「神宿る島」として世界遺産に登録されています。
“うけい”は古代の占い
誓約は、結果に意味を先に定めて吉凶や正邪を判断する古代の占いの一種。神話には他の場面でも登場します。
この章をシェア ✕ ポスト LINE Facebook